■ひらまつの平松宏之社長に経営への思いを聞く ひらまつ<2764>(東2)は『ひらまつ』ブランドの高級フランス料理店を、東京を中心に札幌から博多まで25店舗展開。09年9月期は41.4%の営業増益で大幅増配した。不況どこ吹く風の絶好調ぶり。10年9月期も2ケタ増益見通し。売上だけでなく利益も含めた「月次決算」を発表し、株主をはじめ全てのステークホルダーに安心感を与える、『安心こそがブランド』の経営を展開しているためだ。著名なシェフであり創業者である平松宏之社長。「私の人生観の基本は《個の表現》ですと強調。経営への思いを中心に聞いた。
■高級フランス料理専門では唯一の上場企業――『ひらまつ』ブランドの高級フランス料理店を展開されていますが、上場されているのは御社だけでしょうか。
【平松社長】 そうです。高級フランス料理専門では当社が唯一の上場企業です。2003年3月にジャスダックに上場、2004年からは東京証券取引所第2部市場に上場しています。次は、早い時期に東証1部への上場を目指しています。
――上場された目的はどのようなことでしたか。
【平松社長】 株主様は、同時に、当社のお客様でもあるという考え方です。「個人」という存在をわれわれは大切に捉えています。ひとりひとりの方が顧客であり、ワン・オブ・オーナです。その方々を大切にすることが当社の発展につながります。このことに確信を持ち、経営の基本に置いています。株主様への優待制度も厚く、所有5株で20%の割引です。これは社員がレストランを利用する際の割引率と同じです。現在、約7500名の株主様がいらっしゃいます。大切な株主様であり、大切なお客様であり、当社の発展の基礎となっています。
――経済環境はたいへん厳しい状況です。そのなかで先ごろ業績の上方修正をされました。内容を概略お願いします。
【平松社長】 09年9月期の連結と個別を上方修正しました。連結で申し上げれば、売上高を1億200万円増額の101億7600万円(08年9月期は98億6700万円)、営業利益も1億4600万円増額の9億6600万円(同7億100万円)としました。配当は当初、年1009円と申し上げていましたが、年1588円(08年9月期796円)と、配当についても増額としました。当社は株主様への利益還元を経営の最重要政策の1つとして位置づけています。成長のための設備投資、企業体質強化のための内部留保を勘案しながら、業績に裏づけられた成果の配分として、《総還元性向30%》を目標とした積極的な配当を基本としています。09年9月期の総還元額は5億7700万円となり、総還元性向は108.0%となります。今後も総還元性向30%を目標として自己株式取得を行ってまいります。
■ほかにはない、利益まで明確にした月次決算――以前から、ぜひ、お聞きしたいと思っていたのですが、「月次」決算をおやりになっています。どのようなお考えからでしょうか。
【平松社長】 売上だけなら発表されている企業はあると思います。しかし、利益まで明確にした月次決算はほかにはないと思います。正直、実施するに当っては勇気が必要でした。しかし、最近の社会経済情勢は変化が激しく不透明で株主様、お客様、そして社員たちもたいへん「不安」な心理状態です。このような時こそ1日でも早く数字を明らかにして安心感を持ってもらいたいという考えからです。四半期決算では遅すぎます。人は、ものごとの姿が見えないことが一番不安です。良くても悪くても、ありのままの姿を見せることが「安心感」につながり、「信頼」にも結びつくと思っています。
――ガラス張り経営ですね。
【平松社長】 そうです。『安心』こそが当社の一番大切なキーワードであり、まさにブランドを意味します。ブランド品が売れるのも安心感があるからです。当社のレストランはもちろんですが、会社自体を「ブランド」と捉えた経営方針です。
――月次決算は重要な「安心ブランド」だと思います。ほかには、たとえば、店舗戦略などはいかがでしょうか。
【平松社長】 店づくりは「あせらず」「急がず」が基本です。決して、急いで同じ形のチェーンをつくることはしません。当社では横の展開としてレストランブランドを作り、縦の展開として各ブランド内でそれぞれのレストランを作ってきました。横かける縦で、会社全体を成長させる考え方です。これにより各ブランドの価値を減殺することなく、成長してきました。現在では次のステップとして、ブランド内の各レストラン(ブティック)におけるブティックポートフォリオの確立を推進しています。同一ブランド内の各レストランにおいて、6割とか7割は同じメニュー、味であっても、後の3割、4割はその店の個性を大切にしています。社員たちが個性を発揮し、自己表現する場所である、というのが店に対する基本です。人が育ってから店ができるのです。スピードは遅いかもしれませんが、今は、札幌から博多まで個性があり、それぞれが《自己表現》をする25店舗が活躍しています。社員たちが安心して個性を発揮できる環境を整えることで、お客様にとっての安心感につながり、このことが不景気の中でも良い成績を上げることにつながっています。
――関西圏には店舗がまだのようですが。
【平松社長】 そうです、まだです。『ひらまつ』が東京ブランドではなく、日本のブランド、あるいは世界のブランドとなった時に展開を考えたいと思います。日本ブランドとなった時に関西で受け入れてもらえると思っています。石川県の金沢には来年春、オープンを予定しています。
■売上100億円、1部上場も通過点―09年9月期の売上は100億円台乗せです。当然、通過点と思いますが、今後についてはいかがでしょうか。
【平松社長】 売上100億円は通過点です。しかし、100億円は経営的にはポイントです。たとえば、本部経費の負担の比率が低くなるなど経営に余裕が増します。規模のメリットが発揮できます。これから売上150億円までは速いと思いますし、利益の出る時期です。私は5年単位で経営を考えています。《人つくり》が基本ですから3年では短いと思います。しかし、10年は長すぎますし、仮に、10年先がイメージできるような会社ではだめだと思っています。10年先を言うことは風呂敷を広げるのと変わりません。
――冒頭、東証1部のお話がありましたが。
【平松社長】 売上高100億円、当期純利益5億円を常にクリアし、3年以上継続すれば、おのずと1部上場は見えてくると思います。もちろん1部上場が目的ではなく、これも一つの通過点に過ぎません。しかし、株主様、お客様、社員たち、業者の方々全てに安心感を与えることになりますし、日本全国にレストランを作っていく上で資金調達なども重要になりますので、目指すべき通過点だと認識しています。
――フランス料理の世界にお入りになったのは、どのような思いからでしたか。
【平松社長】 私の人生観の基本は「個の表現」です。学生時代は学生運動に没頭して自分自身を表現することにエネルギーを注ぎました。社会人になるにあたり、自分自身を表現できる仕事はなんだろうと考えて「料理」に行きつき、料理界に入りました。その後、26歳でフランスに渡り修行して29歳で帰国、社員2人と24席のレストランを始め、今日、500人以上の会社に成長しました。開業時のメンバーは今も一緒にやっています。『ASO』ブランドの阿曽を始め、それぞれの店で活躍しています。
■『今、目の前にいる人を喜ばすこと』を追求――レストランの世界では辞めて行かれる方も多いのでは。
【平松社長】 飲食業界は一般的にそうですね。しかし、当社では辞めて行く人はほとんどいません。その理由は、当社の理念にあると思います。より人間的な会社であるために、社員の各々がひとりひとりの違い、個性を認め合い、自分自身を表現することに全力を傾けています。当社には競争原理は存在しません。また、マニュアルもありません。マニュアルは人をロボット化します。そして、共通の目的である「今、目の前にいる人を喜ばすこと」を追求しています。目の前にいる人は、お客様に限らず、業者の方や、となりにいる社員も含まれます。これこそがサービス業の基本姿勢だと考えています。これが当社最大の強みです。
――締めくくりに個人投資家の皆さんにメッセージをお願いします。
【平松社長】 株主様、お客様、社員たち、そして会社の内部留保を大切にする。この4つを基本として今後も進化してまいります。最近「ワインプライス革命」を始めました。一見、安売りのように見えるかもしれませんが、流通のしくみを改善し、適性かつ正当な価格でワインをご提供するものです。このように、常にお客様の立場に立ち、レストランのポテンシャルを最大限に発揮すべく、工夫し考え、取り組んでまいります。一人でも多くの方々に株主としてご参画頂き、レストランでお会いできる日を心よりお待ち申し上げております。
――ありがとうございました。
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 15:10
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