■変化の速いITサービス業界で「現場力」の強さ発揮し高収益

スマートフォンの急速な普及やクラウド時代の到来。一方でネット犯罪の増加などITをめぐる変化は速い速度で進んでいる。高い技術をバックに情報基盤事業とアプリケーション・サービス事業を柱に展開する
テクマトリックス<3762>(東2)。由利孝社長(写真)に急速に変化するITサービス業界における同社の取り組みと展望を聞いた。
――まず、ITサービス業界の流れについて、お願いします。
【由利社長】 私どもは情報サービス産業といわれているシステムを作る側に属しています。お客様は基本的に企業様で、BtoBのビジネスです。コンピュータは小型化、高速化が進んでいます。さらに、インターネットという通信手段が一般化して、ブロードバンド通信が非常に安価にできるようになっていることから、IT利用は一段と進み、IT設備は企業において非常に重要な資産となっています。一方、企業情報の漏えい、外部からの攻撃、不正侵入などの情報セキュリティリスクが高まってきました。当社はこのような企業の情報セキュリティリスクを軽減するような仕組みを提供しています。例えば、これまで防ぐことができなかった、通常のインターネット利用に紛れて企業内部に侵入し、情報漏えいを引き起こすような最近のサイバー攻撃。それらに対応する次世代ファイアウォールを取扱っています。あるいは、ネットワーク中のデータのやり取りを最適化して、データ処理を適切に複数のコンピュータに振り分ける技術も提供しています。これが情報基盤事業と言われているものです。
――最近は新しい流れとして「クラウド」が話題になっていますね。
【由利社長】 クラウド(雲)とは、インターネットのことです。雲のように、向こう側に何があるかよくわからないが、そこからユーザは色々なメリットを享受できます。クラウドの実体とは、我々のような事業者が設備からアプリケーションまでを用意し、利用者する企業はコンピュータ設備を自前で持たずに、提供されるサービスをインターネット越しに利用します。感覚的に言うと、ガス、電気、水道などのように使用量に応じて課金するシステムと同じです。これはコンピュータの高速化、インターネットの普及、セキュリティ技術の進化によって可能となりました。企業ではIT設備の所有から利用へというオフバランス化が進んでいます。従来のように自ら所有してシステムを開発するというより、出来合いの設備や仕組みを必要に応じて借りて使うようになってきています。われわれの事業もモノの販売やシステムの請負開発からクラウドサービスを提供するという形にシフトしています。我々は、これをアプリケーション・サービス事業で提供しています。医療、コールセンター、インターネットサービスに関連する領域で、クラウドに対するシフトが進んでいます。
――産業界全般に「所有」から、「利用」という流れが強まっているようです。情報サービス業界のこの点について、もう少し詳しくお願いします。
【由利社長】 日本のコンピュータ産業は日の丸コンピュータ的なところがありました。かつてはIBMのようなアメリカの技術が世界で唯一のコンピュータ技術でしたが、それに取って替わる国産コンピュータを国が企業を支援して作るという国策の中で日本のコンピュータベンダーが生まれました。当時、コンピュータは大変高価で、且つ技術的にも非常に専門性が高かったため、また日の丸コンピュータという新産業を守るため、企業はお任せみたいな形で、大手のコンピュータベンダーやシステムインテグレーターにシステムの開発や運用を任せるようになりました。お客様に言われたものをゼロから作る、請負型の産業構造の色合いが強かったといえます。さらに、大手からその子会社に、あるいは、中小の下請け専門のシステム開発会社に、場合によってはオフショア開発の形で中国だとか賃金の安い国に開発が外注されており、業界内には多重下請け構造が存在しています。これが従来の日本の情報サービス産業の構造です。しかし、例えば病院の場合、病院毎にシステムを作っても、やっていることはほとんど同じですので、あらかじめパッケージとして汎用的なシステムを作っておいて、それを先ほど言ったクラウドのような形で利用してもらえばかなりの需要はカバーできます。クラウドが進展している理由の一つは、コストダウンに対する圧力です。各社がゼロから投資してモノを作り、所有して、償却するより、汎用的なものであれば有るものを使って、それに業務を合わせていくような考えに変わってきています。当然、その方が安上がりです。この考え方がこれまであまり日本では受け入れられてこなかったのですが、特に、震災以降コストダウンの意識が非常に高くなったことと、震災に遇ったら全てが終わりになるという所有に対するリスクを回避しようという意識が高まったため、自前で作って所有する時代からクラウドのようにあるものを使って、自分で持たない、つまり資産のオフバランス化という流れが加速した訳です。IT業界においては、技術革新の流れに加え事業構造が変わってきているのです。
――日本人には、もともと何でも持たなければならないという考えが強かったと思いますが。
【由利社長】 日本は製造業に強いということもあります。企業秘密であるとか、他社との差別化で、独自の物を持たなければならないという一種の強迫観念みたいなものがあります。もちろん設計・製造技術とか、企業秘密は当然あるわけです。しかし、経理システム、問い合わせ対応の業務システム、医療機関のシステムなどに関しては、全部が秘密なのかというとそうでもありません。そのように、より合理的な考え方が我々の産業内でも進展してきていることから、我々はこの事業構造の変化の中で、時代に受け入れられるような仕事をすることに取組んでいます。しかも、我々は設立以来から直接取引を基本としています。コンピュータの世界は、特殊な言語を使ってシステムを作るために、現場の開発能力が大変重要です。しかし、それだけでは差別化になりません。プログラムというものは世界中誰でも同じ言語を使って開発できますので、当然ながらコストの安い所に開発の仕事は流れていきます。その時に重要になるのは、業務に対する専門性、知識やそれぞれの業界に対する知見です。直接取引を通して、我々にはノウハウがありますし、よりお客様と近いところで話すことが出来ますので、差別化に繋がっています。
――やはり現場に強くなくてはいけないとういうことですか。
【由利社長】 そういうことですね。そうでないとニーズも分かりませんし、モノも作れません。一方でインフラのネットワーク、セキュリティについては、逆に大手のコンピュータベンダーやシステムインテグレーターに我々の2次代理店になっていただいています。ネットワーク、セキュリティ技術は米国がスタンダードなので、米国の技術を日本に持ってきて、大手のベンダーを通じて販売しています。我々が主体的に新しいものを選択して、それを大手のベンダーに担いでいただく形です。この場合、間接的な販売戦略を取ることになりますが、有望且つ革新的な新しい技術を探し出す「目利き力」や海外との人的ネットワークが我々の差別化要因となります。
――10年先、20年先はどのような姿を描いていらっしゃいますか?
【由利社長】 基本的には、これまでお話した流れが加速すると思います。いわゆる請負業態的な情報サービス産業が、クラウド的な産業構造にシフトして行きます。労働賃金が安い中国、インド等で下請け的な仕事が増えるため、特に下請け専門の開発系企業は、製造業と同様に厳しい状況となり、淘汰されていくことになると思います。
■[BtoB]から徐々に「BtoC」への転換が必要
―個人投資家のみなさんに、こういった業界の中で、御社の特徴と強さをいくつか挙げていただきますと。
【由利社長】 時代の流れの中で、主体的に我々のポジショニングというものを意識しながら、柔軟、迅速に変化し、対応していることが特徴として挙げられます。もう一つは、我々の手掛けている仕事はBtoBで一般のみなさんから見えにくいといえます。この点はもっと分かり易く説明する努力をしていかなければならないと思います。もう少し長いスパンで考えますと、コンピュータの技術はどんどん使いやすくなって、且つ、安価になっていきます。今、オープンソースという考え方が広がっていまして、分野によっては複数の人達が世界中でどんどん協力し合ってシステムを作って、そのソースコードやノウハウを全部公開し、無料で利用できるようになってきています。そうすると何が起こるかというと、専門家に仕事を頼むということが段々と必要無くなってきて、企業が自前でそういったものを使って、自分達でモノ作りが出来るようになります。典型的なのは、ゲームを開発している企業です。スピード感が必要なので、自分達でどんどんシステムを作るようになっています。そうするとBtoBというより、その先に最終エンドユーザがありますので、BtoC的なものに業界は収斂されていくと思います。今後はサービスの発想として、一般エンドユーザを意識したモノ作りが必要になると見ています。
――具体的に10年先のイメージとしては。
【由利社長】 直近の10年では、クラウドの流れの中で我々がプレイヤーとして生き残ることです。さらに、次の10年というのは、かなりの部分がBtoCに収斂されていくので、そこのところに足掛かりを作っていくことです。はっきり言えることは、次の世代では、コンピュータ技術が益々世の中で重要な仕組みになっているということです。しかし、特別なものでは無くなってしまうということです。
――先程おっしゃいました電気、水道、ガス等のようなものとなるということですね。
【由利社長】 そうですね。それともう一つ違った説明をすると、例えば現在ハイブリッドの自動車がありますが、ほとんどが電子制御されています。電子制御であるということは、すなわち車の中に汎用チップが何十個も載っていて、そこにソフトウェアが埋め込まれているのです。自動車自体がコンピュータの塊です。もちろんスマートフォンもそうですし、TVもパソコンとほとんど作りは変わりません。コンピュータ技術が一般コンシューマー製品の中にどんどん組み込まれていきます。この技術的な進化を支えているのがITの技術ですが、製品が進化すればするほど、ITの技術が当たり前のように使われていくので、その中で我々がどこに立っているのかということが、長期的な視点では大切です。
――生活に身近なところでは、楽天市場も御社が関わっていらっしゃるのですね。
【由利社長】楽天市場を作る時、我々がかなり関与しています。従って、楽天とは創業時からかなり深いお付き合いがあります。楽天グループでは、楽天市場、楽天証券、楽天銀行さんなど、従来から非常に重要なシステムを開発させていただいています。
――御社を野球チームに例えるとどの様なチームでしょうか?
【由利社長】 「がんばれベアーズ」というところでしょうか(笑)。サッカーで言うとセリアAとかプレミアリーグではないと思います。決して、大規模な会社ではございません。しかし、従来型の請負をするのであれば、いっぱい仕事を取るために従業員をたくさん抱えている必要がありましたが、汎用化されたサービスが多く使われている環境を考えると、人が沢山いることが良いことなのかという疑問があります。官公庁の巨大なプロジェクト、銀行のようにコンピュータシステムの利用を前提として装置産業化している業態もまだありますが、一般の企業は大きな投資をするのではなく、出来るだけあるものを使って、プロジェクトも小間切れにして、効率良くやるようになってきているので、本当に大きなプロジェクトは限られてきています。この点では業界環境は厳しくなっていますが、幸い、我々は人がいっぱいいるわけではありませんので、現在は弱みの一部であるかもしれませんが、将来的には戦略性、技術面を武器として、この規模感を逆に強みにして行くこともできると思います。
――現在の売上規模については。
【由利社長】 今は売上高150億円前後の規模ですが、この規模でやっていくことを前提としているわけでありません。しかし、これから先は、規模の大きさ、人の数の勝負では無くなってきていると認識しています。
■ 大プロジェクトから効率型投資時代に合わせた利益重視経営で
――売上より利益重視ということでしょうか。現在、営業利益率は6.4%ですが、目標としては。
【由利社長】 まずは今期の営業利益率の目標6.6%(営業利益は前期比9.1%増)を達成したいです。リーマンショック前は、10%近いところまで行きましたが、リーマンショックにより、企業の設備投資が大幅に落ち込んだ影響もありましたので、それ以降やや苦戦しています。昨年度は震災発生による企業の事業継続計画や災害復旧計画の見直し等による特需的なIT投資がありました。今期はこうした特需は一巡しておりますが、景気が回復基調にありますので、この目標を確実に達成し、その後の弾みとしたいです。また、今期の売上高は、前期比4.7%増の160億円を目指します。
――社員教育に関しては、何か特別なことをおやりになっているということはありますか。
【由利社長】 特別なことはやっていません。基本的なこときっちりと積み上げています。商社のニチメン(現双日)の営業部門から独立して会社がスタートしたのが28年ほど前になります。他にも商社系から独立したITの企業がございますが、ニチメンはその中でもITに対する取組みが、各社に比べると10年くらい遅れていました。これを挽回するため、会社が設立された時から、我々は技術的に最先端を走っているものを、出来るだけ先回りして取組むという戦略を進めてきました。この効果は大きく、マスマーケットではないが、ニッチで且つ技術的なハードルの高いところで、先行者利益を享受できるように積極的に展開しているのが当社の特徴であり、強さとなっています。企業カルチャーとしては、新しい技術、新しい分野へのチャレンジ精神は伝統的に引き継がれています。新しい分野に出ようとすると、常に勉強し続けていく必要があり、「勉強する」カルチャー作りに全社を挙げて取組んでいます。
――締めくくりに個人投資家のみなさんへメッセージをお願いします。
【由利社長】 株主還元については、現在、配当年2500円実施しています。配当性向としては、かなり高めになっています。利回りとしても高めといえます。先ほどご説明しましたように、IT業界の変化の中で、見えにくい変化ではあるのですが、我々が勝ち組に残っていくということを確信していただけたらと思っています。グループを挙げて顧客に喜んでもらえる仕事をし、顧客満足度を高めていきます。一つの例を挙げますと、我々が作ったコールセンター向けのサービスは、大手システムインテグレーターであるNTTデータのブランドで売られているように、規模は大きくなくても良い仕事が出来ることを評価していただければと思います。
――長い時間ありがとうございました。
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