――日立メディアエレクトロニクス(以下、日立ME)、それからパナソニックより事業譲渡された事業について今後どのように運営していくのですか。
【小野社長】 パナソニックについては、10月1日の譲渡まで時間がありますので、確定論ではありませんが、パナソニックの事業を承継する予定のパワーサプライテクノロジー株式会社(以下、PST社)で、既存のパナソニックの顧客・取引先との関係を維持継続することは決まっています。今後は日立MEから譲り受けた電源事業とPST社のシナジーが極大化するよう組織体制を検討していきます。
――その時、販売先に対しては、これは日本マニュファクチャリングサービスが品質保証をして、直接取引になるということになりますか。
【小野社長】 これはまだ分かりません。当社が商社機能を持つか、それともPST社がその機能を有するか、いろいろ検討していく必要があると考えております。
――御社が掲げていらっしゃることを見ると、単なるアウトソーサーではなく、技術力も兼ね備えたNo.1アウトソーサーを目指すということですが、そうすると今回獲得された電源事業というのは、あくまでもEMSの一部で技術の範囲を高めたいということですか。
【小野社長】 そうですね。電源も基板もそうですが、基幹部品ですから、全ての電化製品、自動車にも入っています。色々な製品に対して供給できるキーテクノロジーを獲得したといえます。製造業の現場では、モノづくりを知らない人がお客様工場に派遣される、また人材ビジネス会社で、人材教育の機能が無く、ただ派遣先企業に人を送るだけという状況もありえます。これではモノづくりの伝承はできないし、差別化も出来ない、いずれは淘汰されることになります。当社が行っている「neo EMS」というのは、ヒトとモノづくりのサプライチェーンから成り立ちます。もともと自社工場を持ったのも、志摩電子とTKRを連結子会社化したのも、モノづくりができる人材を育てるにはマザー工場が必要と考えたからです。我々は工場運営とか、モノづくりの技術を持って、人を育てていくということが基本概念です。それが人材ビジネスとモノづくりが融合する「neo EMS」です。どちらにも偏ることはありません。これは新しいビジネスモデルと言えます。
――今回日立ME、パナソニックの事業の一部を譲受けられたので、メーカーとなることを目指しているのかな、と思ったのですが、違いましたね。
【小野社長】 そうですね。EMSを行っている企業を見ていると、キーテクノロジーが無いといえます。単純に労働集約的に製造受託するだけですので、利益が薄くなってきたり、お客様の生産の動向に応じて、売上が激変したりで業績が安定しません。我々は、家庭用ゲーム機で培った修理技術を手に入れて、モノづくりの中のリペア(修理)のエキスパートになろうとしました。そして、EMS企業を傘下にすることで、モノづくり領域を強化し、次はメーカーの電源事業の獲得となります。電源は技術的には、昔からありますが、代わるものがありません。現在の電源が多少縮小することがあっても、電源が無い家電製品はありません。それで、キーテクノロジーが無いEMS企業は淘汰されるというのが我々の判断でしたので、当社は、電源をキーテクノロジーとして選択しました。
――電源はどうしても必要ですね。
【小野社長】 電源の中でも高圧電源は、日本の技術が上で、なかなか海外は追いついていません。この部分をパナソニックが持っています。我々はその部分を譲受けるわけです。電源の部分でもっと付加価値を付けることができたら、もっと差別化できるのではないかということで、現在、技術部門の課題として取り上げています。
――今後の収益の改善策ということで、国内、海外共にあると思いますが、まず国内の取組についてですが、従来の製造請負・派遣事業(IS事業)を強化するという戦略で間違いございませんか。
【小野社長】 間違いございません。
――取組の中で、特に採用を強化するということですが、現在の人手不足の中で難しくないでしょうか。
【小野社長】 これが一番難しいです。我々の行っているところが一番賃金が安いといえます。製造業は3K職場というイメージがあります。そのうえ、少子化の影響で、絶対労働人口は減少し厳しいといえます。今起こっているのは、同業者間での人の取り合いです。その様な状況の中で、雇用期間を定めない戦略を取っています。安定した職場で雇用することをアピールし、人を集める戦略です。今期は約1000名の増員を目指しています。
――最近の製造業の新しい動きとして、海外から人を持ってくるような動きが出てきていますね。御社の場合、中国、東南アジアにも展開していらっしゃるので、現地で採用した人をかなり持っているので、可能だと思うのですが、このあたりは如何ですか。
【小野社長】 中国とベトナムで、大卒の技術者を採用して、日本語教育を行い、正規のワーキングビザで国内で働いてもらっています。
――中国の方の今後のビジネス展開についてお聞かせください。前期は赤字となりましたので、立て直しの方法について教えて下さい。
【小野社長】 今、深センで志摩電子、東莞ではTKRの工場があります。現在の顧客業種構成や、最低賃金の上昇、または将来性のある案件とそうでない案件等それらをすべて鑑み戦略を立てています。今期は黒字化の予想です。一方、現在、中国から撤退する受託企業が増えています。そのような状況で、我々は足元を固めて事業を行っていますので、TKR、志摩電子の案件は増えています。チャンス到来というところです。昨年は一過性の要因として為替の不利益設定等がありましたが、それについては今期は解決されております。あとは生産計画が甘かったところもありますので、生産計画については本社の方で厳しく管理しています。それらを改善するだけで随分変わってきています。
――今、お話がありましたように、中国から随分撤退する企業があるということですが、日中の色々な問題もあって、日本の完成品メーカーがチャイナプラスワンで、東南アジアへ行くのに合わせて、受託企業も東南アジアへ行くということでしょうか。
【小野社長】 一部はありますが、間違った情報が伝わっていると思います。まず、日本のメーカーは中国を出るという意識はありません。設備投資していますから簡単に撤退するということはできません。リスク分散するということで、一部をアセアンで製造していますが、アセアンと中国でモノづくりをすると考えています。撤退する下請けメーカーというのは、下請けの意識が骨の髄まで染みています。志摩電子もそうでしたが、2年間かけて建て直してきた結果、体質が変わりました。親方から言われたことは受けなければならないという下請的な発想で仕事を引き受けた企業は潰れていきます。その様な企業は沢山あります。我々は、出来ないことは出来ないとはっきり言って、収益改善を行ってきました。技術を高めるにも投資が必要です。『投資して新しい機械を入れますから、この単価では無理です』とはっきり言わないと、結局1年、2年後にはお客様に跳ね返ることになります。下請けとして無理なことは無理とはっきり言って断ることで、志摩電子は体質の改善が進み、日本法人は黒字体質となりました。TKRも同じような手を打っていきます。先ほどの話に戻りますが、アセアンに進出しても、中国のように一気通貫でモノを作ることはまだ無理です。部品供給は中国や日本から来ていますので、アセアンはまだ中国にとって代わるレベルまで来ていません。我々は、既に、ベトナム、マレーシアで事業を展開しています。また、タイ、カンボジアに進出予定ですが、あくまでも中国でのモノづくりと連動するという発想で行っています。
――そうしますと、中国の志摩電子とTKRの収益改善としては、足元の交渉の仕方、レベルアップ、新しい受注で十分に改善できるということですか。
【小野社長】 改善する余地は十分にあります。ただ、タイミング、ライセンスの問題、アセアンへのシフトなど色々な問題を見極めていく必要がありますので、もう少し時間が必要です。ただ、どの方向に進むにしろ、手は打っています。どのような方向に進もうと、調査を入れて、お客様とも話をして、積極的に情報を集めています。我々はTKR、志摩電子を子会社化しグループとしての力が強くなりました。あるものはTKRで受けても志摩電子でやった方が安いとか、志摩電子で受けきれないものをTKRに持ってくるとか融通を利かせることで仕事量は増えます。また、中国、マレーシア、タイ、ベトナムでも案件が出てきますから、グループとしての総合力でいうと受注の入口が非常に広くなっています。これしか出来ないという下請けではなくて、これも出来ます、こっちも出来ます、また、今回のメーカーからの事業の譲受で電源も対応できますので、新たな展開が広がってきます。
――それから中国の労務派遣専門委員会についてですが、今後、派遣が制限されるので、これからは請負が主体になりますということですか。
【小野社長】 元々の発想が、請負をやる前提で中国に進出しました。日本のメーカーの方から中国の工場がうまくいかないということで、当社で請負が出来ないかということで進出しました。当時、請負が出来なかったのは人件費が安かったので、日本のメーカーは、派遣以外は受け付けませんでした。ところが2、3年前から人件費が急上昇し、一人っ子政策もあり労働人口も減少しているため製造業で働く人の数が減っています。それに加えて、デモ、ストライキもありリスクも高いということもあり、法改正も頻繁に起こるので、どうしたらいいのか、ここ数年で大きく変わってきました。今日、やっとその時期が来たということです。中国では、元々労務派遣というのは、ライセンスが必要でしたが、途中からライセンスは中国ローカル企業などは、申請すれば全部認可されるものになりました。そのため、数万社の派遣会社があります。社会保険は加入していない、もちろん払ってもいない、水増しでごまかす。給与も最低賃金なのに、払ってもいない。この様な状態ですから中国政府に対して、低所得者の目が向いてきています。ここでちゃんとした労働政策を始める必要があります。まず、労務派遣の規制をかけようとしたのですが、ただ規制をかけると仕事が減ってしまう。そのため、外包(がいほう)契約を作りました。これはライセンスの必要はなく、アウトソーシング全般をさすような内容です。請負も含んでいるという前提です。ところが、細かく規定しないまま作ってしまったので、外包契約だけが独り歩きしてしまって、これがまた派遣業者の悪の温床になってしまいました。そのため、人力資源社会保障部(日本で言う厚生労働省)の直轄組織である中国労働学会 労務経済及び国内労務派遣専門委員会(中国労務派遣専門委員会)が、派遣に代わって製造請負に着目し、今回の製造請負研究プロジェクトを発足したのです。今後、製造請負がスタンダードに変わってくる可能性があります。今の時点では、まだライセンスとして成り立っていません。このプロジェクトの中で、外資として参加しているのは当社だけです。当社が参加している理由は、当社が持っている請負のノウハウを提供することです。これを中国全土に広めることが求められています。当社は日系企業のみをターゲットにしています。これから発表されて、派遣、外包に代わる仕組みとして、試験的な段階で、モデル事業所を作っていきながら、早ければ年内に製造請負に関するライセンスが発行されるのか、来年になるのかそのくらいのレベルで推移しています。
――どのような点が中央政府の目に留まったのですか。
【小野社長】 何が、中央政府を引き付けることになったのかというと、日本の例で言うと、例えば、派遣というのは1800円の請求単価があって、1200円を社員に払うことで、その差額で、保険支払、設備投資、教育を行います。派遣で働く側にとって請求単価が上がらない限り、時給は上がりません。製造現場は何を行っているかというと、たとえば100人で製造ラインを動かしています。最初は赤字ですが、これを何とか1年後に80人で動かします。80人になった時、請求は80人では行わず、100人と同じ成果を出して90人分の請求を行います。人数を減らしたのは当社の努力です。当社は実際は80人で稼働しているため、10人分当社が余計にもらいます。お客様にとっては、本来100人のライン現場だったのが90人分の請求であれば10人分の人件費が減ります。我々は、10人分の請求金額で得たものを、社員に分配することで、給料を上げることができます。この仕組みを中国政府に説明しました。現在のシステムでは、中国ではこれ以上給料を上げることは出来なくなっています。これ以上給料を上げると、企業はアセアンに出ることになります。そのため、当社が提案した請負のシステムに着目しています。このシステムを作れば、民衆の不安が収まることになります。頑張って給料を上げるシステムは請負しかないということを理解したのです。その結果、製造請負研究プロジェクトが発足し、そのプロジェクトに当社が参画したのです。
――中国で製造請負を行うにはライセンスが必要になるということですね。
【小野社長】 将来的には、法的にきちんと整備されて、ライセンスが発行されると聞いています。今回の製造請負研究プロジェクトに参加していて且つ適正な管理ができる企業に対して許認可がされると思われます。現時点そのプロジェクトに参加している企業の中で、日系企業として唯一当社が入っています。
――今後の収益の拡大を期待しています。お時間をいただき誠に有難うございました。
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