イワキ<8095>(東1)は、7月14日に天然界面活性剤市場に参入することを発表した。今期は、第2四半期連結業績を上方修正していることに加え、今回の新規市場への参入など話題性があることから、代表取締役副社長岩城慶太郎氏に話を伺った。
――今回発表された天然界面活性剤について教えてください。
【岩城副社長】 これは大変面白いです。これは非常に古いテクノロジーを使っています。天然由来の界面活性剤は、シャンプーとか石鹸とか、化粧品であれば化粧水とかに入っています。医薬品だとうがい薬に入っています。その他には、動物用の飼料にも使われています。飼料に添加剤として入れると、吸収力が高まります。あとは、土壌改質に使われます。界面活性剤は水を取込む力がありまして、砂漠の緑地化にも使えます。とにかく界面活性剤は色んな用途があります。ただ我々の分野においては、一番なじみが深いのは、化粧品でございます。
――原料は何でしょうか。
【岩城副社長】 従来は石油から作っていました。石油由来の界面活性剤は刺激性が少しあることから、化粧品メーカーさんは石油由来の界面活性剤は使いたくない方向にあります。特に、ヨーロッパでは肌の弱い人が多いため、まったく石油由来の界面活性剤を使わない化粧品メーカーもあるくらいです。しかし、天然由来の界面活性剤というのは石油由来の界面活性剤と比較すると非常に高価です。例えば、石油由来の20倍くらいします。どのようにして作るかというと、油を発酵させます。微生物を入れて発酵させて、分解したものに界面活性剤が出てくるという仕組みになっています。30年も前から、このやり方で作れば、天然由来の界面活性剤は作れるということが分かっていたのですが、どうしても生産効率が上がらなく高価なものとなりますので、普及しませんでした。我々も過去に何度か、天然由来の界面活性剤の販売にチャレンジしたことがありますが、値段の差が埋まらなくてどうしても商売になりませんでした。
■従来の10分の1以下の価格
――ところが、今回のものは安くできるのですか。
【岩城副社長】 その通りです。我々が資本・業務提携したアライドカーボンソリューションという会社ですが、天然由来の界面活性剤を石油由来の製品に近い値段で作るノウハウを持っていまして、2倍まではいかないくらいの価格で作れます。従来の10分の1以下の価格で作れる体制です。
――原料はマフアという実ですね。
【岩城副社長】 マフアというのはインドに生えている植物の実です。この実からは、マッサージをするときに使うオイルがとれます。このマフアは、インドの様々な地域に生えており、非常に安価に入手できますので、このマフアを絞った油をスタートにして、200時間かけて発酵させて、界面活性剤を取ります。完全にインド国内で生産したものを日本に輸入しています。コストの優位性があるということが、魅力です。現在、国内の化粧品メーカーさんに紹介しているところです。
――御社で、この生産方法についてインドに技術者を派遣するなどして、注力されたのですか。
【岩城副社長】 当社が生産方法を模索していたわけではありませんでした。取引先のつながりで偶然、大量生産する体制が確立し、販売を広げていこうという会社を見つけることができ今回の提携に至りました。
――彼らは、資金力もなく、販売力もないということでしょうか。
【岩城副社長】 そうですね。先ほど申しましたように、界面活性剤は非常に用途が広くて、化粧品・医薬品用途だと、国内では、全体の10%程度です。
■主要な化粧品会社とはすべて取引関係を持つ
――現在、日本の化粧品会社とは何社ほどお取引がございますか。
【岩城副社長】 おそらく、日本国内の化粧品会社で、私共とお取引がないところは全くないと思います。主要な会社とはほとんどすべてお取引をさせていただいています。
■マーケット規模は、国内で約500億円
――当然投資家としては、売上はどれほどになりますかということに注目が集まるのですが。
【岩城副社長】 マーケットの話をしますと、国内で、大体500億円規模です。現在、天然由来の界面活性剤の市場は存在していません。この市場を切り開かなければなりません。夢は、半分ぐらい天然由来に変わったらいいなあと思っています。現実的には、まったくのゼロから切り開いていくので、数年以来の目標としては、3%〜5%の市場を取れればと思います。5%と取れたとしたら、25億円の売上となります。そうすると我々の化粧品セグメントの売上の占める割合の2割ぐらいになります。本当は、10%〜20%ぐらいまで行きますと強気のコメントを出したいのですが、さすがに何十年にもわたって皆がトライしてきてうまくいかなかった背景もありますので慎重にならざるを得ません。コストの問題だけは解決したけれど、品質はどうかということになります。品質については、正直に言って、今から改善していきます。
■原料であるマフアは安価で、価格が安定
――長年かかってうまくいかなかったのに、先ほど突然できたとおっしゃいましたが、投資家は何故できたのか、当然関心あると思います。もう少し詳しく教えていただきますか。
【岩城副社長】 3つありまして、一つはスタート原料です。発酵によって作る界面活性剤は、スタート原料は油であれば何でもよいのです。天ぷら油でもできます。ただ、食用油を使いますと相場が荒れるといいますか、相場が動きますと原価が極端に変わってしまいます。ところが、このマフアは食用には適していません。用途にしても、マッサージ用のオイルとして使うぐらいで、ほとんど用途がありません。そのため、安価で、価格が安定しているという点がポイントです。
もう一つは、発酵技術です。微生物を使って発酵させるのですが、スタート原料によって、最適な微生物の組み合わせがあるそうです。このマフアの実と、ある微生物の相性が良いということで、短時間で発酵できるそうです。これまでは、発酵させるのに何千時間もかかっていました。それが200時間までに短縮できたということです。時間が短くなれば、製造コストも安くなります。更に、生産効率が格段に良くなったこともあります。元々他のもので作ると十数パーセントしか出来ませんでした。つまり、1リットルのうちに150ミリリットルしか界面活性剤がとれなかったのですが、マフアの実とある微生物の取り合わせで、37%くらいの収率なっています。つまり、マフアと微生物の発酵について、飛躍的な発酵技術が生まれたといえます。
3つ目は、自前の生産工場を持っていないことです。インドにある医薬品工場の空いている設備を使わせてもらっています。そのため、初期投資が全く必要ありませんでした。
――突然といわれれば突然ですが、これまでの努力の結果ともいえますね。
【岩城副社長】 そうですね、突然コスト10分の1にはなりませんので、これまでの努力のおかげですね。もちろん課題もあります。この製品の課題は、色と匂いです。かすかな酢酸臭があります。色も薄茶色です。基本的に、石油由来の界面活性剤は、無色、無臭です。そのため、精製の度合いを高めたり、活性炭処理したりしながら、色を取り省く努力をしなければいけないと思っています。出来ない努力ではないと思っています。
――これが成功すると、真似をするところが出てきますよね。
【岩城副社長】 我々が、発表しようかと準備していたころに、ドイツの化学薬品メーカーが、天然由来の界面活性剤の量産を開始したという記事が出ていました。もし発酵の時間がものすごく短かったとしても、スタート原料がマフアより安いということはあり得ません。自前の設備で作るのであれば、我々の価格より安い可能性はありません。コストでは絶対負けません。我々にアドバンテージがあると見ています。我々の技術者の感覚では、ドイツの化学薬品メーカーの5年先を行っているそうです。
■全世界での販売権を持つ
――販売権は国内だけですか。
【岩城副社長】 全世界で販売権を持っています。アメリカ、ヨーロッパでも既に販売していますので、今後、界面活性剤の売り込みをかけていこうと思っています。国内での販促は既に開始しています。数十社にはアプローチ済みです。
――反応はいかがですか。
【岩城副社長】 みんな、良いですね。性能の評価については、返事は来ていませんが、価格面では、評価されています。
――どうもありがとうございました。