■バランスよく計画的に船腹の増強に取り組む
川崎近海汽船<9179>(東2)は、厳しい環境が続く中、12年3月期通期の連結業績予想について、売上高を慎重に見直した半面、利益面では営業利益並びに経常利益を増額修正した。下期入りした足元状況は順調に計画通りの進捗状況であると見られ、安定した業績を堅持する同社の存在感は一段と増している。東日本大地震が発生した直後に、代表取締役社長に就任された石井繁礼氏に同社の近況と今後への抱負を聞いた。

■震災発生時、代替港選定など運航再開へ苦悩も
――震災直後のご就任となりました。ご対応も大変でしたでしょう。
【石井社長】 東日本大震災発生時は内航航路の拠点である八戸、茨城港(日立港区・常陸那珂港区)両港が壊滅的な被害を受け、内航定期船(RORO貨物船)の苫小牧/常陸那珂、北九州/常陸那珂、釧路/日立の運航サービス、苫小牧/八戸で運航している旅客フェリー(シルバーフェリー)の運航を停止しました。
幸い、運航船舶並びにフェリー乗船のお客様には安全に避難して頂きましたが、欠航に伴う影響は大きく、八戸、茨城両港の復旧までの代替港の選定やら、運航再開の見通しも立たない状況に苦悩いたしました。
■震災発生後約4か月、通常スケジュールに戻る
その後、釧路/日立航路は、代替寄港地を日立港区から「東京港・品川埠頭」に決め、3月17日釧路港発・19日東京港到着から運航を再開しましたが、航海距離が伸び、3日2便サービスへと減便しました。釧路/日立航路に復帰できたのは5月24日でした。
また、苫小牧/八戸航路は、代替港を八戸港から青森港(堤埠頭)とし1日2便で臨時便(3月22日〜24日)を運航、25日からは苫小牧/青森航路の許可を得て、1日4便体制に戻しました。RORO船運航は23日から川崎港を代替港として苫小牧/川崎航路3隻毎日1便で対応、さらに4月1日より苫小牧/川崎航路に1隻を臨時便として追加、同日には北九州/川崎航路を1隻週2便で開始、4月5日からは苫小牧/常陸那珂航路に1隻週3便で復帰したのを始め、5月17日からは4隻毎日2便通常運航に戻りました。また、5月18日から北九州/常陸那珂航路に1隻週2便で復帰、5月28日には変則スケジュールながら2隻週3便に戻りました。なお、フェリーは青森港(堤埠頭)でその後約4か月運航を継続しました。
漸く、6月20日に北九州/常陸那珂航路が通常スケジュールに戻り、フェリーについても不十分ながら八戸港の利用が可能となり、7月10日苫小牧発の便より原航路に復帰となりました。
■自衛隊員派遣などで貢献、海上輸送路の重要性を再認識
――震災の業績面への影響は・・・
【石井社長】 港湾施設の損傷は、今後も引き続きマイナスに響きますが、陸上輸送が不可能な局面にあり、一時的には海路輸送が重用された効果もありました。
災害時の対応としては、救援に始まり、復旧・復興へと進みますが、今回、救援のための自衛隊員派遣に際し、海路輸送の要請をお受けしました。弊社は、車両1,203台、要員4,451名の輸送にあたり、お役に立てたことが強く印象に残りました。
緊急時の対応手段、生活インフラとしての海上輸送路の重要性を再認識する出来事でもありました。
今回の救援に伴う輸送が4・5月に集中した結果、運航停止、寄港地変更など大きく影響を受けた反面、第1四半期業績は震災直後の予想に比べ落ち込みが少なかったといえます。
■「近海、内航ともバランス取れた特異な存在」「信頼を得ていること」・・・そこに強みが
――貴社の強みについては如何お考えでしょうか
【石井社長】 近海、内航ともバランスが取れた、特異な存在といえるでしょう。近海部門では経済合理性が追求できる規模の船を揃え、往航は鋼材輸出、復航は、鋼材加工後の製品や部材、例えば、東京スカイツリー建設材などがあります。さらに、木材製品(原木、合板)、石炭等バルク輸入に強みがあります。
内航ではフェリーを含め、地元の顧客の利便性を重視し、業容拡大を図っており、お客様からの信頼を得ていることが強みでしょう。
■新造フェリ−船「シルバープリンセス」来年4月就航予定〜「くつろぎ」「プライバシー」を重視〜
――「シルバーフェリー」の愛称があるフェリーで、新型船の就航予定と今後の建造予定は
【石井社長】 「フェリーはちのへ」の代替船としての新造船の命名と進水式が終わりました。来年4月に就航の予定です。船名は「シルバープリンセス」と呼び、僚船の「シルバークイーン」の姉妹船に相応しいプリンセスと命名しました。本船のコンセプトは「くつろぎ」と「プライバシー」を重視し、シンプルで使いやすい設計を心がけ、船内は北欧の春の光と新緑の中のプリンセスをイメージしています。2等席は全席ロッカー付指定席、メイクルーム付女性専用室、1等室に要望を取り入れ定員2名部屋、ペット同伴部屋やペットルーム(10匹分)を新設し、浴室も一部大理石を使い豪華にしました。
さらに、トラックドライバーさん用のドライバーズルームはプライバシー重視のシングルルームにして、十分な休息が取れるようにしました。ぜひ一度ご利用ください。

■効率向上めざし、新造船への切り替えを着実に実施
今後の船隊整備については、新造船へ切り替えを計画的かつ着実に実施し、運航効率の向上を目指しますが、大型船なら何でも良いわけではありません。むしろ小さい船との組み合わせに、運航効率面で大きなメリットが生まれています。そうした点に配慮しながら船隊整備に積極的に取り組みます。
近海部門では一般貨物船として、12年6月12,000型1隻、13年5月28,000型1隻、14年5月28,000型1隻、13年2月および5月25,000型2隻、15年度以降25,000型1隻、合計6隻。
内航部門では、シルバープリンセスのほかに旅客フェリー8,700型1隻、13年1月石炭専用船(東京電力向け・社船)1隻の竣工を予定しています。
RORO船14,000型1隻についても早期の整備を計画しています。
――茨城県から感謝状が送られましたが、
【石井社長】 弊社は1981年、日立港(現、日立港区)にコンテナ定期航路を開設し、現在では、週21便を定期配船し運航サービスを行っています。
11月14日、東京で行われた「いばらきの港・産業立地セミナー」交流会で、茨城港への寄港30周年を迎えたことに対し、橋本昌茨城県知事より感謝状をいただきました。(写真)

――今期通期業績の利益の増額修正をしました
【石井社長】 通期業績予想は、第2四半期業績発表の際修正した予想を開示しましたが、12年3月期は、近海部門売上高15,350百万円(前期比6.1%増)、営業利益530百万円のマイナス、内航部門売上高25,650百万円(同4.8%増)、営業利益1,880百万円を見込み、全体では当初予想に比べ売上高41,100百万円と500百万円の減額となりますが、営業利益1,400百万円(同300百万円増額)、経常利益1,200百万円(同200百万円増額)と上方へ修正し、最終利益は750百万円(同不変)と見ています。
足元の状況は計画の通り順調に推移しています。
なお、近海、内航両部門の売上高構成比は、今期はおよそ4:6の比率になると見ています。
■株主を大切に、上場以来16年間連続配当を継続しています
――最後に、株主還元を含め、中期的な見方として、社長様のご抱負をお聞かせください
【石井社長】 就任当初から近海部門と内航部門の売り上げ比率を5:5にもっていきたいと思っておりました。そのために28,000型、25,000型を増やし船腹の増強を図ってまいりますが、世界的な経済不安、タイの洪水、円高、燃料油の高止まりと外航海運を取り巻く環境が非常に厳しくなっております。中期的には当初の目標を達成したいと思います。
また、株主様を大切にするという弊社の基本的方針は一貫しており、95年の上場以来16年間、連続して配当を継続実施しています。今後もこの方針は変わりません。今期12年3月期の年間配当金は7円を予定しています。
――本日は有難うございました。