川崎近海汽船<9179>(東2)の社長就任後1年半程度は未曾有の海運マーケット好況を受け、2008年度には記録的な売上・利益実績を挙げたが、リーマンショック後の急激な景気後退・生産調整に伴う荷動きの低下など厳しい経営環境に直面した。これに対し航路再編、効率配船、コスト削減などの施策に取組み、回復軌道に乗せた。今期第1四半期業績も計画路線をクリアし順調に推移しているので、4年目を迎えた森原明代表取締役社長に、5月に発表した新中期経営計画により更なる業績回復に取組む戦略を聞いた。

■いまだから、成長続く海外、特にアジア各国の順調な回復の中に仕事を求めて
――今期第1四半期業績の売上高は通期目標に対し24.4%とほぼ予定通りでした。また、利益面では赤字計上した前期とは様変わりの状況となり一気に黒字回復を実現しました。
【森原社長】 終わった前期をみると、過去のピークとなりました09年3月期の売上高480億円に比べ110億円の減少となりましたが、減少額のうち50〜60億円は燃料油の異常な高騰による調整的な売上とみています。従って、少なくともその分を除いた売上高420億円へ早く戻したいと思っています。
伸ばすといっても、国内輸送、即ち内航分野で急に大きく伸ばすことは難しいでしょうが、海外航路、即ち近海航路部門については伸ばす余地が十分あると考えています。
――といいますと。
【森原社長】 今度の中期経営計画で説明しましたが、アジア諸国が持続的成長するのに比べ、わが国経済はデフレ懸念、雇用情勢の厳しさなどで引き続き緩やかな景気の動きに止まると思われ、産業構造や顧客ニーズにも変化が生じると思います。こうした時期であるからこそ、経済が拡大を続ける海外、特にアジア各国の順調な回復の中に仕事を求めていかなければならないと思います。
中国、台湾、韓国、南アジアさらにインドはもちろん中東も視野に入れ、今までの分野での仕事に止まることなく、違った分野へ積極的に取り組む必要があると思います。そうすることで新しい仕事・新分野への拡大ができると思っています。
いってみれば近海営業体制の活性化を促すことになります。
――具体的取組みについてお話ください。
【森原社長】 船隊の整備と配船の効率化に取組みます。
従来、当社の近海航路では10,000トンクラスの船が中心でしたが、これからはより大きい船を投入するなどの船隊整備を図ります。今秋には28,000トン型(28型)が就航するのをはじめ合計6隻の新造船を投入します。また、内航部門も小型船、旅客フェリー、新規分野進出目当ての貨物船各1隻、また、数年振りとなるRORO船の計4隻の建造を検討・予定していいます。大型新造船の投入は、先ずは既存トレードでの1隻当りの積高を増やす形で売上拡大と効率性のアップを図るものです。
■「貨物の発着水域」という考えに重き置き、運航先拡大・輸送量増加に取組む
――近海部門では、28型新造船投入で遠洋航路への参入も視野にあると聞いていますが、その狙いは。また、発想の原点は何ですか。
【森原社長】 近海部門の不定期船は新興国の経済成長で市況が上昇傾向にあり、石炭等のばら積み輸送分野での収益向上を図りますが、大型船を投入することで、新規航路への参入を目指します。これまでの近海航路部門は、日本海、黄海、東シナ海、南シナ海の一部を中心とする航海水域内にて運航を行って来ましたが、これからは「貨物の発着水域」という考えに重きを置き、これら水域の港を発着する荷物に焦点を当てた運航を考えますから、大きな広がりを持つことになります。
例えば、穀物が米国から出荷されアジアの港に陸揚げされるなら米国に行くこともあるでしょう。アジアの港から豪州へ、さらに豪州から中近東への荷動きがあるなら豪州へ中近東へも運航するといった具合です。
厳しい競争はあると思いますが、これらの水域では今後経済成長とともに消費増大がさらに進展するでしょう。従ってこれらの水域に関わる貨物輸送の増加が大いに期待できるわけです。
■「動かないと負ける」・・・だから何かをやるための種を蒔く
上場会社である以上、規模の拡大、利益水準の向上を図らねばなりませんが、そのためには、これまでのやり方では済まされない筈です。配船にしても工夫し、もっと効率的に回すことはできないか、積極的に現地へ出ていくことが必要ではないか。近海船部門の活性化、スピード感の必要性が浮き彫りになってきました。そこに「動かないと負ける」という危機感があります。
これまでは食えたが、これからは「何かをやるための種を蒔いておかなければいけない」と認識しました。強いて言えばこれが原点といえるでしょう。
――新航路への参入に伴い営業面での強化など特別な施策は如何ですか。
【森原社長】 既に4月には近海船企画調整部を新設しました。これで配船・運航を一元化できましたので営業力の強化に取り組みます。
荷主は世界中に散在しているがマーケットを通じての引合いは情報ネットワークなので現状を大きく変えることはありません。若干、客層が変わることや、いくつかの発着港での代理店(人)を新しく契約するケース位だと思います。
――新造船建造に要する資金計画は如何ですか。ファイナンスは。
【森原社長】 近海・内航部門の新造船建造についての投資規模は3年間で総額150億円を予定しています。11年3月期25億円、12年3月期65億円、13年3月期60億円となります。(2014年以降竣工分を含む。)資本政策としてのファイナンスは考えていません。
■拡大再生産ができる会社それがチャームポイント
――第2四半期の足元の状況ですが第1四半期同様と見てよいでしょうか。
【森原社長】 動きとしては昨年下期の状況と変わっていません。近海の契約は比較的運賃高のところで設定されましたし、内航も昨年よりはよいと思います。ただ、最近の急激な円高の影響は気になります。8月の数字が固まったところで第2四半期の状況について判断できるでしょう。
――配当についての考え方、また、投資家にとって御社の魅力をひと言で表現すると。
【森原社長】 安定配当という表現をしています。配当性向何%という考え方ではありません。出来るだけ次の再生産の資金としての内部留保を厚くしながらも、長期保有して頂く株主様には息切れせずにしっかりと報いて行くことが重要と考えています。
当社は、拡大再生産ができる会社であるところがチャームポイントです。
――有難うございました。
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