化学産業の活発な愛媛県新居浜市出身のJSP<7942>(東1)の井上六郎社長は、三菱ガス化学時代も含め石油化学の技術畑ひと筋。「化学工業も経営も基本を大切にする点では似ています」と、基本重視の経営を貫く。手がける事業はポップコーンのように原料を数10倍に膨らませる樹脂発泡技術を得意とする。軽く、省資源で断熱効果に優れ、需要先は多岐にわたる。昨年の静岡地震では崩壊した東名高速道路の路肩復旧でも同社のEPSがスピード復旧に貢献した。井上六郎社長に好業績の現況と展望を聞いた。

■『優れた樹脂発泡技術と基本重視の経営』、利益優先で好業績
――5月に発表予定の10年3月期は大幅増益見通しです。09年3月期が世界的不況だったこともあると思います。しかし、3年前との比較でも2ケタの増益です。上場企業の業績は回復していますが、3年前の利益には届いていないところがほとんどです。健闘の理由についてお願いします。
【井上社長】 10年3月期については、第3四半期の発表時点で売上790億円(09年3月期比18.2%減)、営業利益は52億円(同92.5%増)と公表しています。3年前の07年3月期の営業利益は41億1400万円でしたから、ご指摘の通り、3年前比較ということでも当時を上回っています。これは、当該期「100年に1度」といわれる、リーマンショックでの世界的な不況により自動車とIT向け製品の需要低下は、期前半響いたものの、当社製品は食品関連をはじめ、生活関連産業向け比率も高く、期途中から自動車関連等需要も回復してきた結果です。
――初歩的な質問ですが、発泡プラスチックは、ポップコーンというイメージでしょうか。
【井上社長】 そうです。樹脂を空気で数倍に膨らませる発泡技術です。大体、10倍から40倍くらいに膨らませます。倍率の大きいものでは60倍くらい、つまり、原料の樹脂1に対し空気60という割合です。このため、軽く省資源で断熱効果に優れた特徴があります。
――需要先も広いのですね。
【井上社長】 非常に多岐にわたっています。食品、建築・住宅資材、精密・OA、情報機器・家電、車両・船舶、運輸・物流、広告・宣伝、農林・水産、スポーツ・雑貨、衣料、教育、文具、医療・化粧品、園芸・植木など実に身の回りのあらゆるところで使われています。皆さんの、もっとも身近なところでは、食品スーパーなどでの食品トレー容器、即席麺容器、弁当容器、納豆・冷菓容器などが直接、目にふれるものです。自動車用途バンパーを含めた衝撃吸収・緩衝用部材液晶パネルの包装・緩衝資材などにおいても活躍しています。
――昨年の静岡地震の復旧工事でも注目されたそうですが。
【井上社長】 あのときの地震では東名高速道路の路肩が崩壊しました。日本の交通の大動脈ですから早期の復旧が求められました。発泡ビーズ法ポリスチレンフォーム(EPS)が貢献しました。横2メートル、縦1メートル、高さ0.5メートルのスチレンフォームのブロックを積み上げるEPS工法(発泡スチロール土木工法)によって4日間で復旧させることができました。EPS工業界に対しては、多くの関係方面から賞賛をいただきました。EPS工法は、特に、上からの圧力に非常に強く、軟弱地盤の強化に最適です。今後、土木用に多く使われてくるものと期待しています。
――社長に就任されて、今年6月で7年とお聞きします。この間の取り組みについてお聞かせください。
【井上社長】 そうですね。ずっと一貫して石油化学の技術畑ですから、基本ということを重視しています。化学工業も経営も原因と結果、収入と支出、技術・人・マーケットが基本ということでは似ていると思います。とくに、会社経営では、売上より利益で論じることが大切だと思っています。売上は結果だと思います。当社ではこれまでカンパニー制でやってきましたが、国内売上が単体ベースで500億円規模程度では、カンパニー制はマッチしないので廃止しました。とくに、社員には、「やりたいことをやらせる」というのが私の方針です。これまで、カンパニー制のもとでは、社員の横の交流が不足して開発面がやや疎かになっていたと思います。カンパニー制を廃止して4事業部制にしました。
――技術畑ということですが、最初から化学関係ですか。
【井上社長】 そうです。私は、愛媛県新居浜市の出身です。化学産業の活発な土地柄ということもあったと思います。最初は日本ガス化学(現在の三菱ガス化学)に入り、以来、石油化学ひと筋です。
――工業も経営も基本が大切というお話でした。このほかに、長く石油化学に携わってこられて何か強く感じられたことはございますか。
【井上社長】 あります。それは、原料使用料の少ない精密化学品事業では、製品の機能性を高め、ある程度高い価格で製品を販売しないと事業の継続が難しく、当社発泡製品事業も精密化学品事業と類似性が強く同様の考え方で技術的にもカスタマーサービスに力を入れ製品と原料の価格スプレッドを維持することが不可欠と思っております。このため、常にコストを引き下げる努力と技術開発に取り組み、高付加価値製品の開発に注力すると共に、社員のモチベーションを引き出すことが常に重要です。
■さらなる高付加価値化と生物由来のプラスチックに注力
――仮に、10年先ということではどのようなことをお考えですか。
【井上社長】 逆に、20年前の1990年、10年前の2000年頃と比べた場合、事業構造はそれほど大きく変わっていません。原料が化石燃料の原油ということでも同じです。10年先も事業構造ということでは大きくは変わらないと思います。その中で、2つのことに取り組むつもりです。1つは付加価値をどう高めていくか。もう一つは、原油価格の上昇傾向は続くと予想されるので生物由来のプラスチックに力を入れます。環境問題にも役立ちます。
――お忙しい日々のご様子ですが、ご趣味はいかがですか。
【井上社長】 できるだけ現場に出向くようにしています。とくに、工場にはもう少し多く行きたいと思っています。趣味は若い頃から合唱団に入って歌っていました。読書もたいへん好きです。
――ありがとうございました。それでは、ビデオで個人投資家のみなさんにメッセージをお願いします。