翻訳センター<2483>(HC)は昨年11月1日、同社が一昨年6月以来取り組んできた翻訳支援ツール『HC TraTool』の開発を終え社内運用を開始した。
この翻訳ツールは、株式会社ロゼッタ(代表取締役:五石順一、本社:東京都中央区)の翻訳支援ツールを改良するとともに、新たに追加開発したもので、これまで発生していた訳語のバラツキ、誤訳・翻訳漏れなど、人的エラーを排除できる画期的システムとなった。
10年新春にあたり、東郁男同社代表取締役社長に『HC TraTool』開発の経緯と同社飛躍への成長エンジンとしての効果、と同社が取り組む重点施策を聞く。

■新開発ツール『HC TraTool』、受注の出足好調
――米ライオン・ブリッジ社(NASD)が世界の語学ビジネスにおいてトップ企業へ飛躍した要因に「優れた翻訳支援ツールの開発が寄与した」という東社長のご認識が『HC TraTool』開発への動機だと聞きました。念願のツールが運用開始に至ったご感想は・・・。
【東社長】 第一次中期経営計画に掲げた目標は、厳しい環境下にあって一部数値的には十分とはいえませんが、重要施策であった『翻訳支援プラットフォーム』のひとつである『HC TraTool』開発では、大枠でユーザーフレンドリーな機能を搭載できましたので満足しています。今後いかに業務のスピード化に結び付けるかが新しい課題です。
――機能強化されたポイントをお聞かせください。
【東社長】 従来の翻訳支援ツールはセンテンス単位中心の処理でしたが、『HC TraTool』では、フレーズ単位の処理を充実させたこと、また、MS officeアプリケーションと連動させ、『HC TraTool』と文書画面がひとつの液晶画面に同時に表示されるよう改めたこと、また翻訳者の作業負荷を考えて操作性を極力シンプルにした点でしょうか。
もちろん、他社の翻訳支援ツールとの互換性もありますから、他社ツールで作られた翻訳メモリを無駄にすることもありません。
――取引先、翻訳者からの反応は如何ですか
【東社長】 導入された顧客からは「使い易いソフト」だというお声も聞きますし、興味を持ったと弊社営業宛に多くのお問い合わせを頂いております。
翻訳者からは、「作業時間が(体感で)30%くらい削減した」、「既存ツールに比べインターフェース(操作画面)がわかりやすく、思ったより使いやすい」、「今後、強力なツールになりそう」などの感想を頂いております。ツールの特長ですが、顧客仕様の用語集や辞書機能の使い勝手が良く、翻訳が自動的にメモリに蓄積される点や、弊社・翻訳者・顧客の三者が共有できるシステムが評価されています。
新ツールを11月に導入し5カ月が経ちました。おかげさまで、翻訳実績は順調に推移していますので、今後、着実に実績を伸ばしていきたいと考えています。
■品質向上・効率化でCSアップに大きく貢献
――新ツール運用開始で期待されている効果とは
【東社長】 例えば、初級から中級の翻訳者が、蓄積されたデータベースを利用することで、本人の経験や能力よりレベルの高い翻訳に仕上げることが可能になります。
また、新ツールではデータベースを共有化できますので、先に述べた翻訳支援するツールとしての使い方だけでなく、翻訳者育成ツールとしての使い方もでき、ツールの活用範囲が格段に広がります。これらの活用方法を通じて、今後さらに翻訳者層拡大を実現したいと考えています。
さらに、新ツールは翻訳者の作業負担軽減に威力を発揮しますので、品質向上と効率化が同時に実現できます。新ツール導入によって弊社が目指す「高付加価値サービスの提供」に大きく近づき、顧客満足度アップに貢献すると確信しています。
――今後プラットフォームのレベルアップへ向けた開発スケジュールは
【東社長】 将来的には、弊社・翻訳者・顧客の三者間の工程管理をオンラインで行うコンテンツ・マネージメント・システム(CMS)構築に取り組みます。
『HC TraTool』につきましては、当面は登録翻訳者と顧客に広く普及させることが先決ですから、配布と運用に重点を置き取り組んでいます。また、並行して、営業面では主力4分野(特許・医薬・工業・金融)を中心に「集中購買化によるコストダウン」を積極的に提案し、顧客メリットの増大を図りながら、取引拡大を図っているところです。
このツールが広く普及することで、翻訳業界の底上げにも貢献したいと思っています。
――ソフト配布の状況はいかがですか
【東社長】 登録者への配布はほぼ完了いたしました。今後はツールの操作・運用に習熟した翻訳者層を拡大させていくのが課題です。
――貴社業務の品質、効率の向上へ大きな武器、成長へのエンジンが整いました。今後の進化に注目したいと思います。10年3月期も終わりましたが、その他の重点施策の成果はいかがですか。
【東社長】 人員の強化については09年3月期には約40名採用しましたが、大幅な増員計画は一旦停止し、配置転換など人材有効活用に重点を移しました。
米国子会社については、当初から取り組んできましたコンテンツ分野に加え、国内同様に主力4分野での取引実績が蓄積できはじめました。売上高で見るとメディア・コンテンツ28.0%に対し、工業32.6%、医薬20.7%、特許10.1%、金融9.0%と収益基盤再構築が見えてきました。今期(09年12月期)は設立来初めて黒字化となる見通しです。
■知的集約型ビジネスへ脱皮を目指す
――11年3月期は貴社の中期計画最終年になりますが、貴社の目指している方向について
【東社長】 『HC TraTool』導入で工程の機械化による効率化を図り、労働集約型から知識集約型への脱却する体制が整いました。また、この期末には第3四半期までと比べ緩やかながら手ごたえを感じるようになりました。厳しい経営環境は続きますが、顧客への高付加価値ソリューションの提供を通じ、事業規模の拡大・収益性の向上を目指します。
また、高品質で安定した商品の提供に努め、産業翻訳業界のデファクトスタンダード構築を目指し、翻訳者の地位向上と翻訳業界の認知度向上に貢献して参ります。