
森下仁丹<4524>は創業が1893年の老舗。銀粒の"仁丹"で知名度は抜群に高い。しかし、高い知名度に比し業績は2006年3月期、07年3月期と営業赤字となるなど停滞。歴史のある企業にありがちな"老舗病"に見舞われていた。2006年に社長に就任した、三菱商事出身の駒村純一社長の三菱の基本である「社会貢献経営」を打ち出している。BS(バランシート)の改善を終え、目下、PL(損益計算書)の向上に取り組んでいる。海外勤務経験が長い駒村社長の大切にしている言葉は「有言実行」。早い時期に売上高200億円(今期予想81億円)、経常利益率10%、東証1部上場を目標としている。なお、昨年から同社創業日で仁丹発売日の2月11日が「仁丹の日」として認められている。今年も仁丹歴史博物館を開催する。駒村純一社長に「経営への取り組み」を聞いた。
■東京神田の生まれで三菱商事出身、関西老舗企業を立て直し

駒村社長 そうです、三菱商事の出身です。三菱商事には1973年に入社して2003年にこちらへ来るまで30年間勤務していました。30年間のうち14年間はイタリア、そのほかにもアメリカなど海外勤務が合計20年間と長かったですね。主に化学品を担当していました。2006年に社長に就任しましたので、今年で3年目です。
――少し、プライベートなことをお聞きしますが、森下仁丹は本社が大阪ですが、社長さんのご出身は関西ですか。
駒村社長 そう見えますか。
――大阪弁がないように感じます。
駒村社長 東京神田の生まれです。学校は中学から慶応に進み、慶応大学では高分子関係を専攻していました。普通なら化学関係のメーカーが進む道だったと思いますが、当時、理科系から商社へ入るのがはやり始めていたので私も商社を選びました。仁丹については小さい頃から浅草に仁丹の広告塔があったことは記憶にありましたので、この会社の社名は知っていました。
――失礼なことをお聞きしますが、老舗の大阪の会社で、しかも、東京のご出身ということでは、ご苦労もあったのではありませんか。
駒村社長 ありましたね、予想していた通りです。老舗の良し悪し、両方です。良い面ではブランドに対する自信です。悪いところはのんびりしすぎているところです。とくに、営業面でブランドに依存し過ぎて真剣さに欠けているところです。本来、当社の手がけるビジネスは、時流に乗った健康産業で、もっと伸びなくてはいけないのです。口うるさいほど「ぶら下がり」はダメだ、「ゆでカエル」はダメだと言い続けて、波風はありましたが、今は、壁がなくなりました。
――社長に就任された頃の業績は、2006年3月期は営業損益で7億円強の赤字でした。どのようなことから手を入れられましたか。
駒村社長 財務内容および収益力も悪く、伝統の火が消えかける状態でした。一昨年、本社工場敷地を売却して、財務内容の改善を行いました。30億円程度あった有利子負債を一時はゼロにしました。現在はピーク時の3分の1にまで圧縮しています。次は、PL(損益計算書)を良くすることに取り組んでいます。
――「売上げ」ということでしょうか。
駒村社長 そうです。
――売上げは企業と社会を繋ぐものだと思いますが、社長さまの経営理念として、どのようなところを重要視されていますか。
駒村社長 企業である以上、損得は当然ですが、損得勘定の前に"善悪"が大切だと思っています。売れるからやるということではなく、社会に貢献して行くことこそがビジネスだと思っています。これは前職であった三菱の基本です。特にわれわれの手がけている健康食品は、安易で野放し的なところが目立ちます。これではいけないと思います。われわれは、この分野で、きっちりとやっていきます。
■2008年8月に第16回生物工学技術賞を受賞
――健康食品関連で有望な商品を開発されているそうですが。
駒村社長 「シームレスカプセル」です。カプセルには、成形組み合わせによる円筒形のハードカプセル、張り合わせによるソフトカプセルなどがあります。当社の開発したシームレスカプセルは、外観は継目の無い真球状で滴下法という製法によるもので多層化が可能です。このため、カプセルに入れる内容物が親油性、親水性のもの、粉末のものなどに適しています。なお、シームレスカプセルに関する国際特許は多数取得しています。
――すみません、もう少し分かりやすくお願いします。
駒村社長 そうですね、多層化とはカプセルの皮膜を2層にしたり、カプセルの中にカプセルが入っているようなものが作れると思ってください。滴下法とは、注射針のような針の先から滴をたらして表面張力で小さな玉を作ります。0.3ミリという非常に小さなサイズも製造可能で、皮膜を薄くすることができるという優れた特徴もあります。このため、他のカプセルよりも多くの内容物を入れることができます。健康食品に使われている素材は、胃の中で強い酸にやられて効果を失うものが多く、たとえば、胃酸に弱いビフィズス菌を当社独自のカプセルに包むことで、生きて腸に届けることができます。この技術で2008年8月に第16回生物工学技術賞を受賞しました。
――製造工場はどちらにありますか。
駒村社長 滋賀工場が、カプセル生産の拠点です。2001年に竣工、敷地面積約1万2000平方メートルです。カプセルの小型化(3ミリ以下)が可能、耐酸性、耐熱性カプセルが可能、開発から最終製品まで一貫製造が可能といった最新の設備を誇る未来型の生産拠点です。特に、耐酸性、耐熱性は優れた特許技術を持っており、この方面の受託生産にも力を入れて行きます。
■"仁丹"ブランドを活かしつつヘルスケア分野を拡大
――御社は「仁丹」があまりにも有名です。需要層が年配者という印象だと思いますが、若年層への展開などはどのようにお考えですか。
駒村社長 基本は60歳代を中心に置いています。人は歳を取るのですから。「緑茶青汁」、「ビフィーナ」などの健康食品の通信販売を中心とするヘルスケア分野においてシニア層のお客様を中心とした健康つくりのお手伝いをする商品およびセミナー・イベントの開催などを積極的に行っています。特に、今後もコアブランドの「ビフィーナ」を基軸に医薬品・健康食品(サプリ類)・美容関係について商品企画と販売の両面から展開して行きます。シニア層をベースとして、40代、あるいはもう少し若い層へ幅を拡げていきます。仁丹という知名度が高いのですから現代風に変えて行きます。
――社名の変更といったことはお考えですか。
駒村社長 今、具体的に考えているわけではありませんが、「仁丹」という名前は残したい気持ちはあります。キリンビールも、「キリン」が象徴的になっていますように、「仁丹」も知名度が高いですから。銀の粒のイメージはなくていいと思います。ご説明しました円いカプセル技術として残ればよいと思います。
――「仁丹の日」があるそうですね。
駒村社長 当社の創業日でもあり、仁丹を始めて売り出した2月11日を記念日として昨年登録して認められました。知名度の高い現われだと思います。今年も2月11日(祭日)の記念日には、仁丹歴史博物館を開催させていただきます。
■「シームレスカプセル」で健康食品中心に売上200億円、東証1部上場目指す
――今3月期の売上げは9.6%増の81億円(連結)の見通しですが、先行きの目標をお聞かせください。
駒村社長 かつて年間売上げ100億円台の時代がありました。昨今の経営環境の不透明さは別として、まず、早く100億円台へ戻して、次のステップで200億円へ持って行きたいと思います。売上高経常利益率は早く5%(08年3月期は2.2%)にして、売上げ200億円の時は10%が目標です。1部上場も目指したいと思っています。
――社長さまの、お好きな言葉を是非お願いします。
駒村社長 「有言実行」です。言ったことは必ず実行し形にすることです。
――締めくくりに、個人投資家の皆さんにメッセージを。
駒村社長 長い間、低迷が続きましたが、会社は変わってきています。株主さまとして、また当社の商品を買っていただくファンとして長い目でのご愛顧ご支援をお願いします。有言実行で頑張ります。
――ありがとうございました。
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